ぎゅうぎゅう詰めではないが、立って吊革を掴んでいる人が多い、という込み具合。
突如、ブリブリブリ~と爆音が響いた。と同時に激烈な悪臭が車内を一瞬にして包んだ。身も一緒に出たのではないかと思われるぐらい臭いが消えない。
堪らず、窓を開ける乗客も。
その時だった。
「皆さん、申し訳ございませんでした。私が食べているものは変なものではないので、毒ガスではありません」
声の主の方に乗客の視線が一斉に集まる。
年齢は30代前半。
この場で謝ることはいいことかも知れないが、普通は黙ってやり過ごす。
顔を見ると頭が少し足らない感じだった、という。
本来なら懲戒解雇だが、自己都合で退職金も支払われた、という。
営業本部長は成績を上げていたが、それと同様に派手に飲み歩いていた。
資本金1億円以下の会社は年間400万円までは、接待交際費として認められるが、超えると一切経費として認められない。
1人5000円以下なら交際費ではなく、損金扱いになる。
このホールに国税が入ったことから、ホールの取引先やら、飲み屋、クラブまでが片っ端から知れべられ、業者からの営業本部長へのバックマージンまでが明るみになった。
「税収が減っているからパチンコ屋は狙われています。5年間はおとなしくしてください。ちゃんとした接待以外は、ポケットマネーで。プライベートのゴルフや普段の食事代も全部自腹で払ってください」
オーナーは税理士からお灸を据えられた。
オーナーの行動を真似ていた営業本部長。
懲戒解雇にならなかったのは、オーナーも弱味を握られているからかも知れない。