70歳になるホールオーナーには人に誇れる唯一の自慢がある。
それはチャーハンだった。
90年代半ば、周富徳が「料理の鉄人」でテレビに登場するようになった頃、彼の店でチャーハンを食べた。確かに美味かったが、これ以上に美味しいチャーハンを作りたくなったことが、チャーハンを極めることになったきっかけだった。
チャーハンを研究して30年近くが経つ。
美味しいと言われるのがオーナーにとっては至福の時で、自宅に招いてチャーハンを振舞うことはたびたびある。
この噂のチャーハンをご相伴に預かった人たちがいる。
オーナーの自宅は東京・港区。高級マンションだった。
キッチンは厨房というのが似つかわしいほどに改造され、炎の料理といわれる中華を作るためには、火力が強い、業務用中華のガスコンロが設えられていた。
チャーハンの具材は以下の通り。どこの家庭にもある極めてシンプルなものだった。
タマゴ、ネギ、かまぼこ、魚肉ソーセージ。
調味料は雪塩のみ。
胡椒や醤油、うま味調味料などは一切使わない。具材もチャーシューは入れない。
拘ったのは具材のグラム単位の量と塩加減だった。たまごは黄身と白身を分け、白身は全部は使わない黄金比を編み出し、それが門外不出のレシピにもなっている。
食べた人によると、「今まで食べた中で一番美味しいチャーハンだった」とお世辞抜きで評価する。
食後、オーナーは必ず聞くことがある。
「このチャーハンに値段をつけて」
町中華では1000円以内が相場。さらに高級な素材を使っていないので、原価も極めて低い。
町中華なら500円といったところだろうか。
で、食べた人が出した値段は「2000円」だった。
そんな高額値段を付けられるのなら、店を出せるレベル。実際、資産家なので店を出す資金ぐらいはあり、チャーハン専門店を考えているようだ。
ただ、レシピを第三者には知られたくないので、セントラルキッチンで作って、それを各店舗で提供する、というような変な考えを持っている。
店の厨房で作らないチャーハンと聞いただけで、興味は半減する。
料理はできたてが一番美味しい。
神座はスープは門外不出。一子相伝でセントラルキッチンで作り、各店舗に配送されている。ラーメンはそれでも成り立つが、チャーハンは違うだろう。