今から20年ほど前の話。
ホールオーナーには1人娘がいた。結婚させてホールの跡取りが欲しかった。
ホールには営業本部長候補の3人の店長がいた。営業本部長になった店長を娘と結婚させる腹積もりだった。
営業本部長テストはオーナーの奥さんが懇意にしている占い師の発案で行われた。
その内容が変わっていた。
ホールの敷地の端っこの方に物乞いを座らせた。物乞い役は役者を頼んだ。
3人の店長がこの物乞いをどのようにあしらうかがテストの内容だった。
その対応ぶりは遠くからカメラで撮影した。
そのうちの2人は「ここはウチの敷地だから他に移ってくれ」というような対応だった。
最後の1人は相手の状況を聞いて、財布から10万円を取り出すとそれを渡した。
本部長になった瞬間だった。
しかし、なぜ、10万円もの大金をすんなりと渡したかというと、そのカネはパチンコで大勝ちしたカネだった。あぶく銭とばかりに渡したのだが、そんな行動に出たのは親の教育があったからだ。
昔、父親が街で大雨に降られた時、見ず知らずのおばあさんから、「これ使って。私はすぐ近くなのでいらないの」と傘を貰ったことがあった。お陰で新調したばかりのスーツがずぶ濡れにならずに済んだ。
おばあさんの厚意に甘えさせてもらったが、おばあさんの一言が心に残った。
「その傘は今度困っている人がいたら渡してあげて」
それ以来、父親の鞄には折り畳み傘が2本入っている。1本は自分用でもう1本が困っている人用だ。
子供の頃から困っている人には親切にしろ、という教えを受けながら育ったわけだった。
だから、物乞いに10万円を渡すことができた。
で、本部長に昇進してからオーナーの思惑通りに娘と結婚することになる。
その後、自分が社長になるとパチンコ業界の将来性を考えて、複数店舗あった店を全部売却してしまったのが10年前。今よりも相当高値で売却することに成功し、その資金で今は不動産会社を経営している。
先見の明があったということだ。
ちなみに、パチンコで大勝ちしていなかったら、物乞いにおカネを渡すことはなかった、という。
人生、どこが転機になるかは誰も分からない。