男は日曜日の夜から朝方まで吞み続け、泥酔状態で始発の山手線に乗った。
山手線は1周1時間ほどかかる。
男の目が覚めたのは2周ほど回った時だった。
その時、身ぐるみはがされていることに気づいた。
上着のポケットに入れていた財布やスマホがない。
男の自宅は東村山市。新宿で西武線に乗り換える必要がある。
JRの改札は駅員に事情を話して出ることができたが、ここから西武線に乗り換えるにはどうしてもおカネが必要になる。
財布とスマホをすられて地獄のどん底に突き落とされた男だが、天は見放さなかった。
道に500円玉が落ちているのを発見する。
これで自宅まで帰ることはできた。
男は泥酔して財布やスマホをすられたことだけは、奥さんには内緒にしたかった。
自分のドジっぷりを散々罵倒されることが目に見えているからだ。
しかし、スマホがないと何もできないことを痛感する。連絡一つつけることもできない。スマホがあれば財布がなくても電子マネーを実装していればなんとかなる。
家の鍵はズボンのポケットに入れていたので家に入ることはできた。
そこには鬼の形相をした奥さんが立っていた。
「どこで飲んでたの!」
「あなたスマホ落としたでしょ」と畳みかけてきた。
男はなぜ、スマホを失くしたのを知っているのか分からなかった。
「スマホを拾った人が親切に電話してきてくれたの」
スマホが落ちていたのは新宿・歌舞伎町だった。
男は歌舞伎町では飲んでいなかった。盗んだ奴が歌舞伎町で捨てたようだ。
男は山手線で泥酔して2周も回って身ぐるみはがされたことは言いだせないので、歌舞伎町で飲んでいたことにした。
しかし、戻ってこない財布には免許証やカード類が入っている。
これを止める作業が待っている。