定年間近のリホーム会社の社員の話し。
東京で戦後に建てられた築70年余りの一軒家のリフォーム案件が舞い込んだ。
家主は70歳を過ぎた老夫婦で、将来息子夫婦と同居するためにバリアフリーに改築する内容だった。
見積もりを書いたら610万円だった。
大阪ならここから値切りが始まるのに、この家主は違った。
70年前に建てた家は親が建てたものだが、一切値切ることなく、「しっかりと建ててくれ」と注文した。
値切ると大工は手を抜くことを恐れたためで、昼飯も全部用意して、手を抜かれないように心がけた経緯を知っていたからだ。
結局、予算は700万円で「しっかりやってくれ」と相成った。
ところが、いざ着工する段なって、家主が急死する事態に。
しかも夫婦そろって。
ふわ、「自殺?」と思ったが、リフォームする老夫婦にそんな理由は見当たらなかった。
死因は検視の結果心筋梗塞だった。
しかも2人共。
時間にして5時間ほどの差だった。
家主のいない暗礁に乗り上げたリフォーム案件で、万事休す、と思われたが、葬儀が終わり息子夫婦が出した答えは「予定通りやってください」だった。
いずれは、自分たちも住む予定で、しかも、自分たちもいずれバリアフリーが必要になる。
そんなことより、気になったのは二人が同じ日に心筋梗塞で亡くなったことだ。