場所は岐阜・高山の安房峠の山道だった。
時間は夜の9時頃だった。
東京から中央高速で高山まで来て、その帰り道に安房峠を走っていた。商談を終えて多少の疲れはあった。
山道で素っ裸の女性がライトに照らし出された。
マネキンか看板かと思った。人間と見えたのは目の錯覚か幻覚だったに違いない、と思いながら走り去った。
しかし、気になってしかたない。もし、人間だったら、と思って15分ほど走ったところでUターンした。
すると、素っ裸で歩いている女性が確かにいた。
安房峠の気温は0度ぐらいだった。すぐに車に乗せた。体は寒さで震えが止まらない。暖房をマックスにした。
歳は40過ぎのおばちゃんだった。
事情を聞いた。
「彼氏と喧嘩して車を降ろされた。迎えに来てくれないので歩いて帰ろうかと思った。この寒さに死ぬかと思った」
病院へ行って警察に届けることを勧めた。
「絶対止めてください」
拾った以上このままにしておくわけには行かない。結局、おばちゃんのアパートまで送り届けることになる。峠から1時間の距離だった。
3段腹の1人暮らしのおばちゃんだった。
「ありがとうございます。命拾いしました。今はこれしかありません」といって千円札6枚を差し出した。
受け取ることはしなかった。
「彼氏とはいつもこうなの?」
「よくあることなんです」
詳しいことは話したがらないが、放置プレイでもしていたのか、と思うようになった。
これが、夏ならともかく、気温0度での素っ裸は命に係わる問題だ。
3段腹のおばちゃんの裸では興奮するもなにもなかった、というのがオチだった。