このパン、商品名は春風。値段は240円。このサイズにしては高い! 見た目の値段でいえば150円前後だろう。
さっそく食してみる。
外はフランスパンの硬さ。中はモチモチ感たっぷり。
こぶりなサイズながらズシリと重い。普通ならこの大きさなら2口で食べられるぐらいだが、小麦の量も多いので、結構食べ応えがある。
中に入っている果肉の甘さが口の中に広がる。今まで食べていたパンとは次元がまるで違う。240円という値段に納得する。
ル・シュクレ・クール。
このパン屋は吹田市岸部北5丁目の住宅街にある。
店主の岩永さんが7カ月フランスで修行した後で、2004年に開店した。本場フランスのパンの味が評判を呼び、予約を入れないと買えないようなパンもある。
味でいえば、大阪市西区靱本町の「ブランジュリ タケウチ」に似ている。
店を探し当て、到着したのは午後3時。
ショーケースの中には、ほんのちょっとしかパンが残っていなかった。それが春風だった。
週末ともなると普段にも増してドッと客が押し寄せる。そのため、金曜日、土曜日は寝る時間もなく、深夜12時からパンの仕込をやっているそうだ。
ここまで書くと岩永さんは腕のいいパン職人のように思うが、若い頃の岩永さんは、自分のパン作りに自信が持てない日々を送っていた。
大学中退後に、彼女がパンが好きだった、という理由でパン職人の世界に飛び込むも、常に自分に迷っていた。
店も7~8軒を転々としていた。
転機が訪れたのは、26歳の時。神戸のフランス料理店時代に、フランスへ修業に行く機会に恵まれる。
肥沃な土地で育った野菜、それを食べる動物、さらにそれらを食べる人間。引き算の日本では体験できなかった足し算の食文化に直接触れることで、パン職人として開眼する。やっと自分でも納得できる美味しいパンが作れる自信がついた。
我が家には時たま大量のパンがテーブルを埋め尽くすことがある。これを食べつくすのに数日かかる。食パンから調理パン、菓子パンまで10種類以上あるが、どれを食べても朝から喉を通らない。あまり美味しいとは感じない。
こんなパンを食べるのなら、少々高くても美味しいパンを選びたくなる。
そんな気にさせるのが「ル・シュクレ・クール」だ。
岩永さんにとってパンとは自分を表現するものだ、という。
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