もうちょっといじっておくべきだった。
会社を退社しようと、事務所の鍵をかけようとしたところに、一人の若いセールスマンが近寄ってきた。
「もうお帰りですか」
手には保冷バックを提げている。
「和菓子の販売にお伺いしたんですが、甘いものは食べませんよね」
帰るところだったにせよ、随分腰の引けた営業。
「うん、食べないね」
「そ、そうですか」
すぐに諦めると隣の事務所のドアをノックしていた。全事務所を回っている様子。
革靴はうすよごれ、踵は擦り減っている。
そんな営業マンから口に入れるものを買って食べる気は起こらない。
1階に下りたところで、同じ保冷バックを持った中年男がエレベーターへと消えた。うちの会社が入っているビルはそんなに大きくはない。
さっきの若い方は最上階から下ってきて、ローラ営業を終えたところ。中年が再トライアルでもするきなのか訝った。
ズボンにノーネクタイのワイシャツ姿。
見るからにサラリーマン風営業マンが一軒、一軒事務所を回って和菓子を売っていること自体が何か異様に思えてきた。
会社を出て商店街を歩きながら、もう少しからんで彼らの実態をさぐるために、からんでおけばよかった、と後悔しきり。
本当に和菓子を売りたいのであれば、若い女の子に売らせるとか、もっと和菓子販売らしいユニフォームを着させるとか、色々方法はあるはず。
大の男が和菓子の戸別訪問販売をやっていくら儲かるというのか。
本当は別の目的があるのではないか、と妄想にかられてくる。
その昔、新興宗教団体が珍味売りに来たことがあった。竹かごを背負い、東北弁丸出し。あのズーズー弁も演技に思えた。
はたまた自己啓発か?
見ず知らずの家庭などを訪問して便所掃除をさせてもらう、自己啓発プログラムがある。
この和菓子セールスは新手の?
う~ん。
分からない。
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