東京在住の26歳のOLは年2回ほどの大阪出張がある。帰りの新幹線で駅弁を食べるのが唯一の楽しみだ。
新大阪発の新幹線は、2列シートの窓側が取れた。
151センチの小柄な彼女の隣に座って来たのは、クマのような巨漢男だった。体重は優に120キロ以上もあるような大柄で、クマ男の体が彼女の席の方にはみ出している。
窓側にしがみつくような姿勢で、クマ男から距離を取った。
京都を出た頃にはクマ男は眠りについたが、大音量のいびきに、よだれまで垂らしている。
トイレに行きたくてもとても声も掛けられる状態ではない。
クマ男はそのうち、革靴を脱いだ。
ここで事件が起きる。
靴を脱いだ途端に、猛烈な悪臭を放ち始めた。
楽しみにしていた駅弁どころの騒ぎではなくなってきた。
あまりの悪臭に通路側のサラリーマンが「足の臭いが臭くて迷惑だから靴を履いてくれないか」と注意したほどの臭さだった。
クマ男は「すいません」と素直に謝った。
第二の事件が起きる。
今度はクマ男がこれまた強烈な臭いのオナラをこいてしまった。
先ほど注意したサラリーマンが再びクマ男に「お前のような奴は指定席に座るな。隣のお嬢さんが可哀想だろうが!」と怒りをぶちまけた。
普通なら喧嘩になりそうな場面だが、クマ男は巨漢を丸めて小さくなっていた。
新幹線は東京駅に着いた。苦痛の2時間半からやっと解放された。
席を立とうとしたとき、クマ男が座って座席に名刺入れが落ちていた。嫌な思いをさせたクマ男のものなので、そのままにしとこうと思ったが、気を取り直して、クマ男を追っかけた。
「これ落としていましたよ」
クマ男が取った行動は予想外だった。
「先ほどは隣でご迷惑をかけたので、ご飯でも奢らせてもらえませんか?」と差し出した名刺が、電通だった。
電通クマ男はなんとナンパを仕掛けてきたのだ。
強烈な臭いによだれ、大音量のいびき。
断ったのはいうまでもない。