西中洲の高級寿司店で歓待されているときだった。不意に接待してくれた社長が「映画になったっちゃ」といい始めた。
どういうことか?
在日のその社長は高校時代は甲子園を目指す高校球児で、同学年の今は亡きカープの津田恒美から県予選で2本のヒットを放ったことが自慢だった。
「下関の部落に生まれ育って、高校時代は暴走族に車を運転させて学校に行っていたんよ」
野球一筋ではなく、かなりやんちゃな生活を送っていたようだ。
話の流れから喧嘩に明け暮れていた高校時代の社長の仲間や社長をモデルにした映画で、2~3年前の作品だということが分かってきた。
「題名はなんていうんですか?」
「いわんよ」
「レンタルビデオで観られるんでしょ?」
「うん、あるよ」
「借りてみますから、タイトルを教えてくださいよ」
「ええっちゃ」
「なんでですか?」
「R指定で、暴力シーンにsexやらヤクザやら出てきて…観るもんじゃないっちゃ」
タイトルを教えてくらないのなら、最初からいわなければいいものだが。
後は自力で探すしかない。
映画監督は在日で友達だというヒントもある。
翌朝、ホテルでパソコンを立ち上げ、ヒットしそうなワードを入れた。
「下関 悪 3人」
これではそれらしきものは出てこなかったが、舞台は下関なので、これを軸にいくつかの検索ワードを入れているうちに見つかったのが「ハードロマンチッカー」だった。
監督のグ・スーヨンの半自伝的小説を映画化したもので、2011年に公開されていた。
主役のグーには、松田翔太ではないか。
これに間違いない。
後は無料で観られる動画サイトを探し出して、観ることができた。
高校を中退して喧嘩とsexに明け暮れるグー。全編そんなシーンのオンパレードで、最後の感動もない。確かに「観んでええっちゃ」という意味が分かった。
映画の中で社長役は誰が演じていたのか気になった。
エンドロールでその後、どんな人生を歩んだかが紹介されていた。ここにヒントがあった。