民放がクライアントの顔色を伺いながら番組を制作するのに対して、最近のNHKは受信料を払う視聴者の顔色を伺うようになった。
名古屋場所の中継について7割り近くが反対していることを受けて、NHK開局以来、初めて大相撲中継を中止する決断を下した。一昔前ならNHKも視聴者の顔色を伺うことはなかったのだが、一連のNHKの不祥事で受信料の不払い運動が起こっている今となっては、致しかたない決断でもあろう。
5日に放送されたNHKスペシャル「大相撲は変われるのか」を観た。率直な感想はジャーナリストと力士の違いだ。
ジャーナリストは取材相手から利益供与を受けるとジャーナリスト失格とさえいわれる。金でも握らされると真実を伝えず、相手に都合のいい記事を書いてしまうからだ。金で魂を売ったら“一流”のジャーナリストとはいえない。
ところが、力士は上に行くほど「ごっつぁん」体質が骨の髄まで染み渡り、利益供与を受けることが自分自身の人気のバロメーターともなる。そもそもタニマチが付いて一人前の力士でもある。
相撲人生の中では、ただ飯、ただ酒が当たり前。時には女をあてがわれ、ズブズブの関係になっていく。これが長年続く角界の伝統であり、ここに暴力団が付け入る隙がある。
番組には暴力団関係者も登場。今回の野球賭博へ力士を呼び込んだカラクリを暴露していたが、ファーストコンタクトは食事からだった。
地方巡業で幕下力士が一人で晩飯を食っているところへ言葉巧みに近づき、まずは晩飯を奢る。名刺には社長の肩書き。力士は奢ってもらうことが当たり前なので、警戒心は持たない。やがてその場所ごとに合うようになり「自分にもやっとタニマチが付いた」と逆に喜ぶ。こうしてめしや金、女で手なずけた後、この力士を仲介者に幕内力士を野球賭博へ誘惑していく。
暴力団関係者は野球賭博以外にも、裏カジノにも同様に誘い、暴力団関係者が力士を取り囲むようにバカラに興じていたことを明かした。
にも関わらず、番組で裏カジノに踏み込むことなく、野球賭博だけに限定してしまった。
野球賭博も裏カジノも胴元は暴力団。金が裏社会へ流れる構図は同じなのに追及が手ぬるい。裏カジノではもっと大物力士や親方、理事の名前が出ることを恐れているかのようだ。
これでは完全にウミを出し切ったとはいえず、見切り発車での名古屋場所開催と非難されても仕方ない。放送を中止したNHKも苦渋の選択だっただろう。
「応援してくれるタニマチの存在はありがたい」と武蔵川理事長もいうように、角界のごっつぁん体質を改める気はさらさらない。これはむしろ力士の特権だと思っている節もある。
角界の病巣はまさにこのごっつぁん体質なのに、ここを摘出しないことには、裏社会とのズブズブの関係は断ち切れない。中学校卒業で相撲界。一般社会常識に欠ける力士を暴力団がフロント企業になりすまして騙すことなんか簡単なこと。野球賭博以外に詐欺商法の広告塔に利用することも簡単なこと。
相撲界から永久追放された大嶽親方は自分のことを盛んに「アホ」といっていたが、閉ざされた相撲社会の中では、アホがさらに磨きをかけてアホな大人になっていくことが分かった。
中学しか出ていない力士には、社会人教育が必要だが、ごっつぁん体質の脱却が先決だろう。
人気ブログランキング